Beer Roundup (Winter 2018)



ビールの世界は創造的なものである。それはつまり少し風変りな世界であることも意味する。新しいアイデアと革新が、時に奇抜さや一見無意味な行動と密接に関連している。いったい何が起きているのか見てみよう。しかし、まずは分かりやすいニュースから……。

ブリュッセルビアチャレンジは2012年にベルギーで始まった審査会である。2017年度大会では、85人の経験豊かなジャッジによる国際的審査委員会が、世界各地から提出された1400以上のビールを評価した。審査会は、審査員が金賞、銀賞、銅賞、そしてたまに「Certificate of Excellence」を授与するという、一見単純なものに思われる。奇妙なことに、銅賞は複数のブルワリーが並んで受賞することもある。我々の関心を大いに引いたのはいくつかのカテゴリーだった。近年、ほとんどの国際審査会で見かける典型的なカテゴリーがあり、その中に最近出てきたサブカテゴリー(「パシフィックIPA」「ベルジャンスタイルIPA」など)も含まれていた。しかし、「トラディショナルセゾン」「モダンセゾン」「ダブルセゾン」など、我々が見たことのないサブカテゴリーもあった。「モダン」という修飾語句は、ブラックセゾン(濃色にするためにロースト麦芽の使用量を増やしている)やお茶入りセゾン(本号「Bare Bottle」で言及)など、今まさに起こっているこのスタイルの改造を意味する。セゾンというスタイルにおいて、「ダブル」というカテゴリーは見たことがないが、これはアルコール度数が高いセゾンを意味する。うん、美味い。

ほかにも見慣れないビアカテゴリーに、「Bières de Garde ambrée(ビエール・ド・ガルド・アンブレ)」というものがあった。このスタイルのビールを日本ではほとんど見かけないので、復習する必要があった。これは最近フランスで盛り返しているファームハウスエールで、「ambrée」は琥珀色を意味する。伝統的にこの種のビールは寒冷な時期に田舎の農家の納屋でつくられていた。より時間をかけ、管理しながら発酵をするようになった結果、雑味がなく、香ばしい後味を持つビールをつくれるようになった。一般的に麦芽の特徴が感じられ、ホップの香りはあまりせず、ホップの苦味は低から中程度で、おそらく少しスパイス味やかび臭さを感じられるだろう。もちろん現代ではあらゆる種類の興味深い(かつ美味しい)アレンジがある。同審査会には無関係だが、グランビル・アイランド・ブルーイング(カナダ・バンクーバー)がソラチエースホップと米を使用し、「ジャパニーズ・ビエール・ド・ガルド」をつくった。日本のブルワーもカナダ産麦芽とメープルシロップを使って「カナディアン・ビエール・ド・ガルド」を作るべきだろう……。

さらに我々の目を引いたカテゴリーは「スペシャルティビール」カテゴリーの中の、「イタリア風のぶどうエール」というサブカテゴリーであった。これは、世界的に注目を集め始めているイタリア生まれのスタイルで、ビールとワインのハイブリッドである。穀物(麦芽など)の分量に対してぶどうをどれほど使用してよいかというのは、ブルワリーによって意見が異なる。最大49%と、最大40%という意見がみられるが、最低使用量は定められてない。この大まかなガイドラインとぶどう品種の多様さから、かなりの自由裁量が認められたカテゴリーだといえる。2017年の勝者は驚くことに、米国・ファイアストーンウォーカーのフェラル・ヴィニフェラだった。日本の愛飲家の一部は、このスタイルに度肝を抜かれることはないかもしれない。10年以上前に、箕面ビールがカベルネというぶどうの品種を用いたカベルネエールをつくり始めたからだ。ほかにもぶどうを使って実験をしている日本のブルワリーはある。審査会に話を戻すと、今回受賞した唯一の日本のブルワリーはアサヒビールで、アサヒスーパードライ瞬冷辛口が国際ピルスナー部門で金賞を獲得した。

前号の「Round Up」で、ラグニタスの、大麻から抽出した精油を投入したビールについてレポートした。 国際的飲料企業であるコンステレーション・ブランズ社(バラストポイントのオーナー)が、この分野に大きな一歩を踏み出している。秋に同社はカナダに本拠地を持つ大麻メーカーの「キャナピー・グロウス」を買収。米国で全面的に大麻製品が合法となった暁に、米国市場での大麻入り飲料の製造を視野に入れている。予備知識をお伝えすると、医療用大麻は29州およびワシントンD.C.で、娯楽用大麻は8州およびワシントンD.C.で認められている。これらの州の州法は依然麻薬を禁じる連邦法と抵触していて、その結果、政治的・法的衝突が生じている。連邦法がアルコール飲料を規制しているので、(少なくとも公共消費用の)大麻入りビールを製造するブルワリーはまだない。しかし、もし法律が変われば、コンステレーション社は、もうかるであろう新しい飲料市場で収益を上げる構えだ。米国では、大麻は数百万ドル規模の産業であり、株式会社が数社参入している。日本では、まぁ……少なくとも日本酒がある!

世界各地には醸造に関するエリート大学がいくつかある。日本では東京農業大学(東京農大として知られている)がそれに当たる。クラフトビールブームが席巻している米国には6000近いブルワリーがあるが、普通の大学がビール関連のコースを提供するというケースも増えている。ケンタッキー大学の先例に倣い、ピッツバーグ大学の教授(熱心な自家醸造家でもある)が「エンジニアリング1933(禁酒法が廃止された年)」と呼ばれる、上級エンジニアリングコースを設けた。醸造設備の設計や配管、ビールについて学ぶことができ、講義中定期的に飲むこともできる。受講生はコースの一環として、春休みの期間中に11日間のベルギー旅行に行くことも可能で、ブリュージュに滞在して2マイル(約3.2キロメートル)のビールパイプライン(本誌第31号「Round Up」参照)について学ぶことさえできる。



1817年に初めてスタウトを米国に輸出したギネスは、200周年を記念して、1817年のブルワリー記録に記載のレシピを用いてアニバーサリー・エクスポート・スタウトを特別に醸造した。通常のフォーリン・エクスポート・スタウトに比べると、より麦芽の味わいが強く、甘みがある。ここ数年の傾向として、現代のブルワリーは前工業化時代のレシピを復活させている。ビール史の専門家で作家のロン・パティンソンは複数のブルワリーと共同で、古い醸造所の記録を研究し、そのビールを再び醸造した。日本では、小西酒造が幕末のレシピで醸造した「幕末のビール復刻版 幸民麦酒」を醸造し、黄桜はなんと古代から伝わる小麦を使った「黄桜 ブルーナイル」というビールをつくっている。オランダ人は江戸時代、長崎で何を飲んでいたのだろうか……。

米国の独立クラフトブルワリーを代表するブルワーズアソシエーションは、「#takecraftback(クラフトを取り戻せ)」という名のクラウドファンディングキャンペーンを立ち上げた。目的は、ライバルと明言するビールの国際的複合企業、アンハイザー・ブッシュ・インベブ社の買収資金の調達だ。問題は、同社時価総額が約2130億米ドルに上るということである。この数字は、コロラド州のあるTV局が試算したところによると、アメリカ人一人あたり653.37米ドルを負担する計算になる。一見非現実的に思われるこの数字だが、このキャンペーンのウェブサイトによれば、すでに300万米ドル以上が集まっている。しかしこれは目標のたった0.0014%に過ぎない。是非ともウェブサイト(www.takecraftback.com)をチェックされたい。真面目なメッセージを含んでいるが、とてもユーモアに富んでいる。

さて、奇妙なニュースに話を移そう……。

フィンランド独立100周年を記念し、フィンランディアチーズ社が、ワインと、チーズでできたビールグラスのセットを提供した(そう、そのグラスでビールを飲んだあとに、グラスそのものを食べることができるのだ)。手づくりの品であるため、お値段なんと5千米ドル。興味があれば、チーズを溶かしてカップを作る方法を教えてくれる映像がインターネットにいくつかあるので、チェックしてみよう。



スター・トレックのビールについてご存じの方は? ニューヨークのシュマルツ・ブルーイング・カンパニーが、『新スタートレック』30周年を記念して「キャプテンズ・ホリデイ(大いなるホリデイ、シーズン3 第19話のタイトル)」という名のビールを醸造した。実のところ、同ブルワリーはスター・トレックにまつわるビールを最近いくつかつくっている。彼らはビールを「転送」することはまだできないのだろうか……。

フロリダのブルワリー2社(ヒドゥン・スプリングス・エール・ワークスとアーケイン・エールワークス)が、クリスピー・クリーム・ドーナツを使ったビールをつくっている。疑問なのは、クリスピー・クリームが新宿に開店したときのように、このビールのために雨のなか2時間列に並ぶ人がいるだろうか、ということだ。

親愛なる日本のブルワーよ。こういった奇妙なビールづくりに興味があれば、キットカット抹茶スタウトかイチゴポッキーブロンドエールをお願いしたい。そういう気がなければ、今つくっているような美味しい、正常なビールをつくり続けてほしい。あなた方のビールづくりに我々は頭が下がる思いだ。

This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.